あたらしいはなし

短文作品『あたらしいはなし』


 ここからは、新しい話です。

 消せないことのあとで始める、ここからが、みんな、あたらしい、はなしです。

 本当を打ち明けると、今までのぜんぶを、なかったことにしていたら、新しいかたちをみつけることが、できなくなってしまったんです。

 ですから、新たなるものを願うとき、いらなかったことの、ぜんぶ、嫌いになったことの、ぜんぶ、今をさいなむ過去の、ぜんぶ、その全部、ぜんぶ前部があったことにいたします。

 もう、あったことは消せないのですから。どうかその上に、これらが新たに生まれる話でありますように、と願いました。

 これは新たなる、新しいはなしの話しです。

 ですからこれ以降、あらかじめまっさらな、あたらしいは、なし、となるのです。


[あたらしいはなし 了] 

夏ヶ瀬ノ文集

遠ざかるほどに日の浅くなる、夏を渡る。 [ 夏ヶ瀬 文人 - Fumito Natsugase ]